屋根材選びのポイント

外装リフォームの教科書 Vol.10

屋根材選びのポイント

屋根の葺き替え等で屋根材を選ぶ時、どのような点を考慮すればよいのでしょうか。屋根材は地味ながらも常にその時々の流行を反映してきました。また災害などを教訓にして安全面でも進化し続けています。最新の商品情報をチェックしながら適切な屋根材を選びましょう。


重視するポイントを明確にする

屋根材は好みのものを必ず選べるというものではない。例えば雪が多い地域で水分を吸収しやすいスレートを葺くと凍害で割れてしまうだろう。また既存の屋根材より重い屋根材で葺き替えると建物に構造計算以上の負荷がかかる。雨から建物を守るための屋根材が、選び方を間違えることで、かえって建物に被害を与える要因にもなりかねないのだ。そのため屋根材選びでは、デザインだけでなく、地域の特性や工事に至る経緯などを考慮した上で、重視するポイントを明確にしておく必要がある。



《ポイント》風対策

屋根の安全面で今特に注目されているのが「風災」だ。令和元年房総半島台風では、瓦屋根が甚大な被害を被った。この災害をきっかけに建築基準法の告知基準が改正され、令和4年1月1日の改正法施行後は新築(増築の場合は増築部分)で瓦葺きをする場合、全面の瓦を固定する「ガイドライン工法」とすることが義務化される。リフォームで瓦を葺き替える場合は改正前の基準でもOKではあるが、「改正後の基準で葺き替えることが望ましい」とされており、同じく「ガイドライン工法」での施工が一般的になるものと考えられる。風災は瓦葺きに限らず、固定が不十分であればどの屋根材でも起こる問題だ。風を受けやすい立地など、リスクが高い建物では特に注意が必要だ。


瓦葺きは基準の改正前と改正後でどう変わる

新築及び増築部分で瓦葺きをする場合、改正前と改正後でどう変わるのか。ざっくり言えば「瓦を固定する範囲」。改正前は屋根の一部(軒・けらば・棟等)は固定する必要があるとしていたため、一般的に大部分の瓦(平部)については固定せずに葺かれているのが現状だ。しかし改正後は全ての瓦を固定する必要があるとしている(イラスト参照)。また屋根改修の場合は、「耐風性能が十分ではないおそれのある既存住宅・建築物の屋根の耐風性能の診断及び脱落の危険性があると判断された場合、改修に必要な費用の一部に対する支援を行う」としている。利用する場合は地域により基準に違いがあるため、各自治体での確認が必要だ。

▲青い部分は固定の必要がある部分。左は改正前、右は改正後


風被害に注意したい立地

風は瞬間的に強さが増すと被害をもたらすような突風となることがある。「ビル風」「おろし」「谷風」などと呼ばれるように障害物や起伏が多い場所では様々な方角から風が集中して突風が吹きやすくなる。高台や海沿いなども風が強い場所だ。どのような屋根材でもしっかり固定することと、定期的なメンテナンスで屋根材の割れや浮き、棟板金の押さえ等のチェックを行うことが大切だ。


風被害に注意したい屋根形状

屋根形状では面の数が少ない「片流れ」や「切妻」屋根の方が4枚の面で構成されている「寄棟」よりも風を受けやすいとされている。屋根勾配では急勾配の方が緩勾配より風当りが強い。また屋根材の大きさでは大判のものが風圧をまともに受けやすい傾向にあり、瓦棒葺きや折半屋根といった軽くて大判の金属屋根が遠くまで飛んでしまうケースもある。



《ポイント》耐震

耐震を目的とした屋根改修では、屋根材を軽くする工事が多く行われている。しかし建物自体の耐震性能が低ければ屋根材が軽くても地震によるダメージを受けることに留意したい。むしろ「屋根を軽くしたから地震が起きても安心だ」と思いこむことの方が危険だといえよう。1995年の阪神淡路大震災では、屋根瓦の被害が多かったことから瓦の重みと耐震との関係がクローズアップされた。しかしこの災害を受けて瓦葺きの施工基準を定めた「ガイドライン工法(P33参照)」によれば、瓦屋根の被害は昔ながらの葺き方に問題があるとして新しい施工基準を定めている。


粘土瓦の軽量化が進む

瓦屋根の重さは工法によっても違いがある。古くより受け継がれてきた湿式工法(土葺き)は、土を水でこねたものや漆喰で瓦を固定する方法で、その重さは60㎏/㎡と重い。現在多く葺かれている瓦は桟に引っかける乾式工法で施工されていて、重さは約45㎏/㎡だ。この乾式工法は施工方法を変えることで軽量化したものだが、加えて瓦そのものの軽量化が進んでいる。和瓦や洋瓦の形状をそのままに、1割以上の軽量化を実現した瓦や、内部に空洞(中空構造)を作ることで通常の瓦に比べて40%も軽量化した瓦も登場している。

▲各屋根材の重さ


防災瓦

防災瓦は、瓦同士が噛み合う構造になっていて、更にクギによって桟木に固定するための穴が開いている。そのため、従来の瓦のように地震や強風でズレなどが起きにくいというもの。防災瓦のかみ合わせには平らな形状のF型瓦で採用されている「ロック型」と、和瓦のJ型瓦や洋風瓦のS型・M型瓦で採用されている「ジョイント型」がある(右のイラストはジョイント型)。重さは従来の瓦とほぼ同じだが、軽量化した「軽量防災瓦」(約10㎏/㎡の軽量化)もある。



《ポイント》雪に強い

豪雪地帯の屋根材は、多い時には1㎡150㎏以上にもなるという雪の重みと、日夜繰り返される雪の凍結融解といった過酷な状況の中で建物を守り続けている。豪雪地帯の屋根は、雪が落ちやすいように急勾配にしている屋根もあれば、逆に勾配を緩く、また雪止め金具を多用して雪を屋根に載せたまま溶けるまで待つという「無落雪屋根」もあり、近年は後者が主流となっているようだ。しかしどちらも使用している屋根材には共通点がある。それは吸水性が低い屋根材が使用されているということだ。


吸水率と「凍害」の関係

屋根に限らず外壁材にも同じことがいえるのだが、屋根材の中に空間がある場合、そこに水分を含んでしまう。どのくらい含むのかを数値で表したものが吸水率だ。含んだ水分は酷寒の環境で、凍結と溶解を繰り返す。水は凍ると体積が増えて、屋根材を内部から破壊していく。これが『凍害』や『凍て割れ』などの原因となる(イラスト参照)。そのため吸水率が最も低い金属屋根、特にガルバリウム鋼板が用いられている。金属屋根は、古民家の茅葺き屋根をカバーする材料としても用いられている。



《ポイント》塩害に強い

海に囲まれている日本の屋根は、塩害対策が大きな課題となっている。塩分を含んだ風が金属などを腐食させ、ダメージを与えることを塩害と呼ぶが、腐食が進むと穴が開いて建材の強度を弱める原因にもなりかねない。金属ばかりではなく、セメント製品の劣化も早めるため、どの屋根材を選んでも、こまめにメンテナンスをして屋根材に塩分が付着しないようにすることが大切だ。


塩害に強い屋根材とは

金属は塩害に弱いと思われがちだが、例えばステンレス屋根は錆びに強い金属屋根材だ。しかし、バリアとなっているクロムの金属膜に傷がつくとやはり腐食するという弱点がある。また「軽い」「錆びない」「強い」の3拍子揃ったチタン屋根は、高価なため一般住宅向きではない。一方近年注目されているのが「次世代ガルバリウム鋼板」だ。ガルバリウム鋼板に防錆効果をプラスしたもので、重ね葺きにも適している。


塩害地域+豪雪地帯の屋根

海に近い雪国ではどのような屋根が適しているのだろうか。豪雪地帯で主流の金属屋根を葺いた場合、塩害で屋根材が弱って雪の重さに耐えられなくなるだろう。雪が多い日本海側の屋根をみると、瓦屋根が多いことに気付く。瓦は吸水率が高く、凍害で割れてしまのでは…と思うところだが、島根の石州瓦は1200度の高温で焼き上げるため気孔が少ない。つまり吸水率が低く凍害に強い瓦に仕上がる。さらに表面の釉薬で塩分が付着しにくいため塩害にも強い。この他にも石川県の能登瓦や新潟県の安田瓦と、それぞれの土地に育まれた瓦がある。


リフォマガ2021年6月号掲載

 

 

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