3匹の猫と暮らす建築士の中村裕実子さんは、「猫は福の神」と話す。9年ほど前、猫と暮らす家に特化したサテライトサイト「猫と建築社」を立ち上げ、今では依頼の8割が猫仕様の案件だ。猫との暮らしや家づくりについて聞いた。
▲猫と建築社(神奈川県鎌倉市)中村裕実子さん
テレビ局のアシスタントディレクターやバンドのマネージャーなどを経て、リフォーム会社に就職する。営業・設計・現場管理と一連の業務を経験した後、建築士を目指すことに。2008年に独立、建築設計事務所「design office neno 1365」を設立し夫婦で営む。2013年に猫仕様の住まいに特化したサテライトサイト「猫と建築社」を立ち上げる。2級建築士。
うちの猫は空気のような存在
「猫と建築社」の中村裕実子さんは猫と暮らして25年、猫の生態を知り尽くし、家づくりに活かしている。
「猫の本能のまま過ごさせてあげたい。猫の好きな動きに人が困らないような工夫をすれば、猫も人も快適に暮らせます」
猫との出会いは、祖母の家にくる野良猫だった。祖母が猫好きで幼いころから野良猫と慣れ親しんでいた。一人暮らしを始めたときも、近所の野良猫がご飯を食べにきたり、その子猫と一緒に布団で寝たり。本格的に猫を飼い始めたのは、実家に戻った27歳から。
「我が家の猫は空気のような存在で、無くてはならないけど普段特に意識もしません」と中村さん。
「自分の子供みたいに擬人化している人もいますが、私は、自分と違う種の生き物として捉えています。やることなすことが人間と違い、見ていて面白いし、飽きないし、なんでも許してしまう」
猫好きと建築がコラボ
中村さんの実家は工務店だったが、若いころは建築にまったく興味がなかった。テレビ局のアシスタントディレクターなど多様な職種を経験するなかで、友達の「カフェバー」を改装するお手伝いをしたことがある。
お店を自分たちで設計し手作りで作り直して、「楽しかった!工務店の娘の血なのかも」と感じた。その出来事がきっかけで、建築の道へ進もうと決めた。2008年、独立して建築設計事務所を設立したものの、オンライン集客が増えなかった。そこで、2013年に猫仕様の住まいづくりに特化したサテライトサイト「猫と建築社」を立ち上げる。
「大好きな猫と建築が仕事になればと思いつきました。当時、猫のためにリフォームしたいという人はいませんでしたが、今は8割が猫仕様の案件です」と話す。近年は、「完全室内飼育」という概念が広まり、室内だけで飼う人が増えた。
猫は人間と同じで個体差が大きい。「お客様とのヒアリングの際は、猫のくせや特性を聞くところから始めます。例えば爪とぎは、床に対する垂直面でとぐのが好きな猫もいれば、床の平面でとぐのが好きな猫もいます。普段の生活で気に入っていることを聞いて、より快適な空間を提案します」
また猫に壁をとがれると困るため、他社ではペット用の強化クロスを貼ってツルツルした壁にするリフォーム提案が多いが、中村さんは猫目線を忘れない。「爪とぎは猫の本能なので、やめさせることはかわいそうです。『サイザル麻』を腰壁に貼ると、猫がとぎやすいし、壁はボロボロになりません。人間も困らないのでお勧めします」
▲K邸リビング。TV背面の壁にDVDなどの収納を兼ねた猫用のステップを設置。ステップを上り右に行くとガラスのキャットウォークに、左の突き当りにはサイザル麻タイルの爪とぎ壁を作った。床材はタイルカーペットを使用し、部分的に剥がして洗うことができ便利。どこからでも愛猫の動きが楽しめる
photo by ToLoLo studio
▲「猫と建築社」のセレクトショップで販売する「爪とぎハウス」。神奈川県の形がモチーフで、国産の強化ダンボールを使用
猫には人を笑顔にする力がある
中村さんは個人で地道に保護活動も行い、福島で被災した猫を飼っている。「一匹でも多くの猫ちゃんと飼い主が幸せに暮らせるおうちを作りたい。人間の側に合わせるのではなく、猫がのびのび暮らせるようにすると、人も自然と幸せを感じます」
休みの日は3匹の猫とゴロゴロしたり、落語のDVDや場所中は相撲を観たりして過ごす。遠出の旅行は猫が心配なのでしなくなった。
「猫がいてくれるだけで空気がやわらかくあたたかくなります。猫を見ていると些細な悩みはすぐに吹っ飛びます。猫はいるだけでみんなを笑顔にする力があると思います」
▲K邸猫廊下。猫が外を眺めやすいよう、窓の上端より少し低い位置にキャットウォークを設置。一段下げた土間のようなスペースで足に挟まった猫砂を払い、カウンター収納の上では日向ぼっこをしたりお昼寝したり
photo by ToLoLo studio
リフォマガ2022年5月号掲載
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