施主の真のニーズを引き出すヒアリング手法 8

質問の方法を工夫しながら要望を引き出していく

漠然とした質問を投げかけても、なかなか意図した回答が施主から返ってくる事は少ないもの。その際は、質問の投げかけ方を工夫し、何かしら具体的な情報を引き出せるようにしてみよう。こちらの働きかけ次第で会話を盛り上げていく事が可能だ。

施主の要望に+αをプラスした個性的なデザインリノベを得意とするブルースタジオ(東京都中野区)の田邉若菜さんに、ヒアリング時に心掛ける質問のコツを聞いた。



選択肢の提示があると答えやすい人も

「お客様が要望や好みを引き出せるよう、質問の方法は色々と工夫しています」

こう話すのは、施主の要望+αのデザイン提案を強みに持つブルースタジオで活躍するデザイナー・田邉若菜さんだ。

例えば質問は、こちらから選択肢を投げかけて選んでもらう事が多い。キッチン提案ならば、どんなキッチンがいいですか?と言われても答えられない施主も多い。そこで田邉さんは、〝家族と会話しながら調理したいですか?〝テレビを観ながらですか?〞〝黙々と作業するタイプですか?〞と選択肢を提示しながら引き出していく。こうして、ぼんやりとした、施主が漠然と抱いている暮らしの輪郭を掴んでいく。

施主の暮らしや趣味・個性をより反映した特色の強いプランを得意としている田邉さん。普段から施主の価値観や世界観の深い理解に努める。ヒアリングやプランを練る際も、同じ趣味を体験したり、見聞きしたものをさらに自分で深堀して調べたりして、コンセプト作りのヒントにする。

「以前もお施主様の飼い犬の名前が気になったので、言葉の由来等を調べプラン作りの参考にした事がありました」

キッチンもゴミ箱の置き場所が使い勝手を左右する。

「地域によってゴミの分別方法が異なるので、ゴミ箱の数も異なります。その地域のゴミの分別方法を調べていますね」

施主との打ち合わせは多い時で6時間に及ぶ事も。施主さえも想像つかない驚きのデザイン提案にこれらのプロセスが必要不可欠なのだ。



施主の好みやニーズを引き出す質問テクニック

質問テク1 選択肢を提示しながら要望を掘り下げていく

キッチンプランの場合「対面にしますか?壁付けにしますか?」と担当直入に聞かれてもイメージが出来ない人が多い。

「キッチンで調理しながらテレビを観られますか?家族と会話したいですか?」と選択肢を提示しながら質問していく。


質問テク2 何が好きかを聞くより嫌いなものを聞く

好きな物を聞かれるより、嫌いな傾向にある物を聞かれると答えやすい人もいる。内装材のデザインを選ぶ際、敢えて違うテイストのものを組み合わせて選んでもらい、施主の好みや傾向を探るようにしている。


質問テク3 ご主人と奥さんに平等に質問する

夫婦との打ち合わせの場合、発言量が偏りがちだ。さらに夫婦間で意見が食い違う時は設計者の出番。口調や表情からどちらかが我慢しているなというのを読み取り、代替案を提示するなど調整役になる事も。



《事例紹介》

生き物好きのご夫婦が山水画のように暮らす家

施主の奥様は、猫の他にメダカやアカヒレ、ヤモリ、様々な観葉植物を育てていた。そこで田邉さんが提案したのが「家は宇宙。わたしたちと猫の山水画の中で野生に戻る」というコンセプト。

「堀割」をイメージし、水路に見立てた青いタイルを敷いた。また天井から植物を吊るし、畳部分には玉砂利を敷くなど、夫婦の好きな物を沢山散りばめ、まるで山水画のような空間を提案した。食事を楽しむダイニングテーブル、寛げる小上がりの畳と、様々な素材で空間毎に段差を付けた点が特徴的なこのプラン。

当初、ルンバフリーの家を要望していた夫婦だが、今はこの好きな物に囲まれた家で、自分たちらしく暮らせる事に大満足しているという。

▲元々育てていた大きな観葉植物を中央に入れられるテーブルもオリジナルで造作。この家のシンボルツリーになった。

▲リビングから玄関を見る。左手のニッチではイモリを飼育している。

▲床はスペース毎に高低差を付け、フローリング畳など様々な素材を使用。これにより、キッチンのカウンターとダイニングテーブルの高さが揃い使いやすい。

▲直線の対面キッチンは通路で余分なスペースをとってしまうので、緩やかにカーブしたキッチンを造作した。LDKの空間を広く使える。

▲銅板で作った1500mmほどの幅がある大型の洗面台が特長的。壁付けの水栓シャワーもあり、植物の水やりや剪定をするのに便利。

▲愛猫用の水飲み場にも青いタイルを。猫のトイレは人間と同じ場所につくり、猫専用の出入り口をつけた。

▲ウォークインクローゼットには、有孔ボードを使った壁掛け収納も提案。


 

お話をうかがったのは…

▲ブルースタジオ(東京都中野区)田邉若菜さん

現在28歳。父親がデザイナー、母親が建築士という環境で育ち、自然と家づくりの仕事に興味を持つ。美術大学を卒業し、新卒でデザインリノベーションを手掛けるブルースタジオに入社。主に個人邸のリノベーションの他、賃貸物件や大規模修繕の設計監理、また大学時代に家具屋でアルバイトしていた経験を買われ、モデルルームのスタイリング等も手掛ける。施主の暮らしや個性を反映した、ストーリー性のあるリノベデザインを得意としている。これまでに大小含め約70の物件を手掛ける。

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