【THE SHOKUNIN】熱きラグビー魂を持つ建具職人イメージ通りの建具で、顧客に感動を

【建具職人】粟野 祐輔さん(52歳)

リフォームの営業担当者にとって、熟練の職人さんは大切なパートナー。今回登場するのは建具店の三代目・粟野祐輔さん。情熱を持って、建具の未来を考えている職人だ。



建具職人の矜持
テレビ見ている間に取り付け

「お客様がテレビを見ている間に、リビングの扉を外し、新しい扉を一度当てがってから、ピッピッとビスで留めて終わる。私の現場はそんな感じです」。そう話すのは、建具職人の粟野祐輔さんだ。寸法をきっちりと測り、自社工場で自ら建具を製作。現場で鉋を使うことはほとんどない。顧客の家を鉋くずで汚したくないという思いもある。

工場を持たない建具職人が多い中、顧客の要望に合わせて、どんな建具も製作できることは粟野さんの大きな強みになっている。急な依頼にも対応でき、建具以外の作り付けの家具なども製作している。

▲粟野建具工業の工場。材料となる材木が並んでいる。「建具屋ではなく、よく材木屋に間違えられます」(粟野さん)



丹精込めて製作した引き戸
顧客が感激して涙

そんな粟野さんが仕事で大切にしているのは「お客様が喜んでくれるものづくり」をすることだ。ある時、粟野さんは階段下の収納の引き戸の製作を頼まれたことがあった。家全体のリフォームで、他の建具はメーカーのもの。そこだけ遊び心を、という要望だった。

そこで、粟野さんはベニア張りの建具に、襖紙をわざとくしゃくしゃにして陰影を出す「もみ」という細工を施した。さらに襖の引手(ひきて)は骨董市で見つけたヴィンテージものを取り付けた。その引き戸を見た施主の60代の男性が感動して涙を流したという。

「職人が作る建具なら、お客様のイメージ通りのものを形にできます。コストは高くなりますが、それを認めてくれるお客様は多いと感じています」

▲粟野さんが製作を手掛けた門扉



工務店に飛び込み営業
1万円で話を聞いて

ラグビーの名門校・神奈川県立相模台工業の出身で、高校時代は全国大会で準優勝も経験している粟野さん。一度は社会人ラグビーチームに入ったが、怪我で退職。21歳で家業の建具店に戻ってきた。

最初の1年間は千葉の知り合いの建具店で丁稚奉公。「職人さんから『敷居の上に乗るな!親の頭と教わっただろう!』などとよく叱られましたが、ラグビーの練習に比べたら、全然きつくなかった」と笑う。

実家に戻ってからは、祖父や父親の顧客に頼らず、自分の顧客を増やそうと、工務店に飛び込み営業をかけた。

「工務店の社長に、『1万円払うので、1時間話を聞いてください』と自分の財布からお札をバーンと出して、お願いするんです。すると、『なんだ、こいつ?』となって、話を聞いてもらえました。これがきっかけで、学校や保育園などの施設の仕事をいただいたこともありました。もちろん、『小僧がお金を出すんじゃない』と返してくれる方もたくさんいました」と粟野さんは話す。

今後はベニア素材の建具を「アート」に高めたいと考えている。

「端材をパッチワークにした建具を考案しています。あと、レバーハンドル(取っ手)を自由に交換できるシステムも考えたい。好みのレバーハンドルに替えたいと思っても、メーカーごとに位置が違っていて、取り付けられないことも結構ある。着せ替えセットのようなものが作れたら面白いと思っています」

▲端材となったベニア板を組み合わせて扉に加工したもの。このデザインの扉は昨年、古民家のリフォームで採用された。パッチワークは手間はかかるが、ゴミを減らすことができる



推薦の言葉

翔工務店 代表取締役 中山正太郎さん

粟野さんとの出会いは、材木屋さんからの紹介でした。粟野さんはとても気が利く方で、仕事を依頼していない場所でも、戸当たりが壊れていたら直すなど、僕らが現場で見逃していることに気付いてくれます。

建具を全部交換しない場合でも、万が一、後から扉を交換したいと言われた時に備えて、寸法を測っておいてもくれます。先日もお客様から「見すぼらしく見えるから、やっぱりここも交換して」と言われましたが、粟野さんが測ってくれていたので、すぐに交換できました。

取り付けだけを行う建具家さんが多い中、自分で製作・取り付けができる粟野さんはすごいと思います。

私達工務店の人間は、ずっと現場にいるわけにはいきません。それぞれの現場を職人に任せていますが、そんな時でも、粟野さんは安心して任せられる職人さんです。



粟野さんからリフォーム営業担当者にメッセージ

「こうしてもらうと嬉しいなぁ」

営業さんが和室の建具の発注を忘れていて、引き渡し近くになって、「中二日で建具を入れられませんか?」と言われることもあります。ひどい時は「今日できますか」と言われたこともあります。余裕を持った工期をお願いしたいです。

建具に使用するベニアでもメーカーによってサイズが違い、この建具にはこのメーカーは使えるけど、そっちは使えないというものがあります。もし、何かわからないことがあったら、相談してもらうのがベスト。職人から知識を吸収してもらえたらと思います。

▲身だしなみにも気を遣っている粟野さん。いわゆる作業着ではなく、ジーンズに革のエプロンで現場にも行く

▲道具を入れて持っていくのは、高級ブランドエルメスのバッグ。父親が太鼓のバチを入れていたものを譲り受けた。「カゴに入れて道具を持っていくよりは、この方がかっこいい。若い人が建具職人に憧れを持ってもらえるようになったら嬉しいです」



リフォマガ2022年6月号掲載

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