施主の真のニーズを引き出すヒアリング手法 5

ヒアリングシートを活用して暮らしの全貌を把握する

商談前に家族でリフォームについて話し合う機会を作ってもらうのに、ヒアリングシートの活用は有効だ。シートの記入作業により、暮らしの全体像を把握する事が出来るだけでなく、家族全員の意見をどう汲み取るかも検討しやすくなる。

住宅性能向上リフォームを得意とする中島工務店の中島創造新木場展示場所長が日頃活用しているヒアリングシート『すまい・めも』を見せてもらった。



毎月の水光熱費を記入する項目も

性能向上リフォーム提案に力を入れている中島創造所長。プランニング前、施主に記入してもらうヒアリングシート『すまい・めも』では、1カ月の水光熱費を記入する欄がある。

「現状のお宅の、耐震性能や耐久性、温熱環境を定量的に数値で把握して、リフォームによってどの位まで改善出来るかを事前に提案する事を大切にしています」(中島さん)

そのため設計前は、1〜2週間、脱衣室やトイレ、廊下等の各所に小型のデータロガーを設置し、各室がどの程度の温度域なのかを計測する。断熱工事によって、どの位環境が改善するのか、シミュレーションソフトを用いて具体的な数字で示すためだ。予算との兼ね合いをみながら、天井や壁の断熱材の厚みを調整するなど、物件毎にインフォームドチョイスを行う。

この『すまい・めも』には、住宅設計に必要なありとあらゆる施主の情報を引き出すため、様々な質問項目が用意がされている。

「お客様が聞かれて嫌な事もしっかり教えてもらう姿勢が大切です。〝自分の家づくりのために聞いてくれるんだ〞と思ってもらえると教えて頂けます」と中島さん。ヒアリングシートを書く時間が家族間で住まいや暮らしに向き合う貴重な時間にもなっているようだ。



『すまい・めも』の存在が暮らしを見つめ直すきっかけに

性能提案だけではなく、ソフト面の提案にも注力する。先述した『すまい・めも』では、夫婦それぞれの住体験や家族の団らんの在り方、得意料理を聞くなど質問項目が充実しており、回答内容がプラン作りの際の貴重な資料となっている。



《事例紹介》
使用した国産材は全部で6.5平方メートル
マンションの中に無垢の家が誕生

築46年の鉄筋コンクリート造マンションの全面改装。室内はRC部分を除いて壁や天井は全て解体、老朽化した設備配管の交換、壁や柱などの既存の構造躯体を活かしつつ、新たな間取りに。室内の寒さを解消するため、発砲系断熱材30mmを壁・天井に吹き付け断熱性を向上。様々な工夫により、エアコンを3台設置していたが、1台での空調管理が可能に。

リフォーム後、パソコン教室等が開かれるなど地域のコミュニティの場としても進化した。加子母で育った杉と桧を主要部に使用。使用した木材は全部で6.5平方メートルを超え、マンションの中に無垢の家が誕生した。

▲内障子や断熱ブラインドの設置も行う。間仕切り壁を必要最小限にする事で、リビング、ダイニング、廊下、玄関を風が吹き抜ける空間に。

▲14畳とコンパクトでありながら、空間の中心に設備コアを配置し廻れる動線に。移動が容易になった。家具やキッチンは、中島さんが趣味で購入している丸太のコレクションを適材適所で利用し木の空間に馴染ませた。

▲〔Before〕改修前のキッチン。作業スペースが狭く、使い勝手が良くなかった。
 〔After〕シンクはアイランドカウンターに移動させ広々。キッチン面材はヤマザクラを使用する事で木の空間に合わせた。

▲杉フローリングは厚み30mm。無垢材特有の足触りのよさが特長。施主が望んでいた船底天井はRC躯体の梁が干渉する為、ひのき垂木の勾配天井として提案した。

▲データロガーで計測している様子。トイレの他、玄関、ダイニング、寝室、脱衣室など各所でリフォーム前と後に温度・湿度の計測が行われた。



お話をうかがったのは…

▲中島工務店(本社 岐阜県中津川市)新木場展示場所長 中島創造さん

岐阜県中津川市の加子母(かしも)に本社を構える中島工務店で、新木場展示場の所長を務める。あゆみ設計工房と共同で設計した『マンションでも木のある暮らし~砧マンションリノベーション』が、2019年ジェルコリフォームコンテストで公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター理事長賞を受賞。東濃ひのきの産地である加子母は、地域をあげて林業に取り組む木のものづくりの村。同社では、加子母をはじめ岐阜県産材の木を使い、全国10拠点で様々な建築物を幅広く手掛ける。


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