今回登場するのは、女性営業として様々な壁にぶつかりながらも、それを乗り越えて、会社に新しい風を吹き込んでいる宮田望さんだ。
▲筑豊住建(福岡県飯塚市)専務取締役 宮田 望さん(34)
大学卒業後、父親・髙橋邦夫さんが社長を務める筑豊住建に入社。事務担当だと思っていたところ、営業を任され、チラシ配りからスタート。24歳で結婚・出産。26歳で復帰。一女の母
▲色紙に一言!営業で大切にしていること
「この言葉は、社長の父が創業当初から目指していた経営理念であり、お客様との約束です。この言葉を引き継いでいきたいと思っています」(宮田さん)
怖いもの知らずのギャル
「うちの会社知ってますか?」
福岡県飯塚市で昭和57年に創業した「筑豊住建」。商圏を会社から車で30分圏内に絞っている地域密着型のリフォーム店だ。宮田望さんは、創業者で社長の髙橋邦夫さんの娘。大学を卒業してすぐに入社した。
「当時の私はいわゆるギャル。キャピキャピしていたんです」と宮田さん。営業職に配属されたが、大学は商学部で建築の知識がない。それに、そもそも父親がどんな仕事をしているのかよくわかっていなかった。
最初の仕事は、地図を見ながらのポスティング。一定のエリアのポスティングが終わると、今後はインターホンを鳴らして営業をかけていった。
「怖いもの知らずで、飛び込み営業にも抵抗はありませんでした。まずはうちの会社がどんな会社か知りたくて、お客様に『うちの会社、知ってますか』って聞いていました」
「化粧品はいらない」「乳酸菌飲料は頼んでない」など、リフォーム会社以外のセールスと間違われることもしばしば。しかし、宮田さんは、そう言われることも面白く、自分の行動が会社の営業活動の「種まき」になればいいと考えていた。
そのうちに新人ながらも、後に700万円の受注をしてくれる顧客を捕まえるなど、少しずつ実績を上げていった。
営業2年目の試練
契約は取れるものの……
営業2年目、宮田さんは壁にぶち当たる。顧客から工事について聞かれても、うまく説明ができないことに気づいた。
「契約を取ることに集中して、工事や建築についての勉強をおろそかにしていました。当時は建築の面白さを知らなかったのです。お客様から『どういう工事なの?』と質問されても答えられない。『わからないです』と答える自分が嫌で、苦しみました」
契約を取ることにこだわったのには理由があった。入社当時宮田さんが現場に行くと、「何も知らない女の子が来たぞ」という雰囲気になった。職人に質問しても素っ気ない返事をされた。「売上を上げて、見返したいという思いに駆られていました」と宮田さんは振り返る。
その後、結婚・出産をし、26歳で仕事に復帰。その時には、住宅に対する考え方が変わっていた。家の中の動線や使いやすい収納など、今まで関心がなかったことに興味を持つようになった宮田さん。これまでとは違った目線で現場を見ることができた。
しかし、女性目線で細かい意見を言う宮田さんに、これまで付き合いのあった大工職人が反発。職人が総入れ替えとなる事態となった。
しかし、それがある大工職人と出会うキッカケとなり、宮田さんのサクセスストーリーが始まることになる。
営業・職人・現場監督等が一丸となって良い家づくり
「あんたね、建築に興味を持ちなさい。あんたの感性なら、もっと良いものを作れる。そうなれば、もっと仕事が楽しくなるよ。それに契約を取ったら、現場に来んいうのはいかん」
宮田さんはある大工職人からそう言われてハッとした。
これまで宮田さんは「元請とはこうあるべき」と肩肘を張っていた。「なんで私の言うことを聞いてくれないの」という態度が、職人との距離を広げていた。「遅いかもしれないけれど、今から現場を学ばせてもらおう」と考えた宮田さんは、一つひとつの現場を回るようになった。
現場を回って、わかったことがある。
「うちはリピーターのお客様が多いのですが、これは営業が頑張っているからだと思っていました。もちろん、営業や現場監督の頑張りもあるのですが、職人さん達が現場で目配り、気配りをくれていたのです」
そこで、宮田さんは「私の使命は、まずお客様を喜ばせることだ」と考えを改め、一念発起。現場に携わる全員が一丸となって、いいものを作ろうという雰囲気が出来上がったことで、リフォームデザインコンテストにも数々入賞。売上も順調に伸びていった。
▲Before
農家の使っていなかった2部屋を大胆にリフォームした案件。農作業を快適にできる土間と、サーフィン好きで多趣味の顧客のためにバイクなども置けるガレージを作った。また、和室の天井をなくし、ロフトも設置した
▲After
見事な欄間はそのまま残し、ロフト部分の渡り廊下部分に使用(左写真)「このリフォームは私と、大工職人とお客様でアイデア合戦をしながら完成させました」(宮田さん)
会社をリブランディング
女性目線のおもてなし
大きな気付きを得た宮田さんは、会社のリブランディングにも取り組んだ。
会社の年間売上目標は5億円。この目標達成には「リノベーション」と「女性目線のおもてなし」がカギになると考えた。
まず、価格競争になりがちな設備交換のリフォームだけでなく、リノベーションもできることをホームページなどで大きく打ち出すことで、客単価アップに成功。さらに男性営業が辞め、全員(3人)女性営業になったことをキッカケに、きめ細かな気配りができる「おもてなしリフォーム」を大きくアピール。
加えて、各営業の得意分野を活かせるよう、担当は決めるものの、チーム制で仕事を行うことにした。
「うちの営業チームは個性が分かれているんです。1人は断熱など見えないところにこだわる構造マニア。もう一人は床材やクロスが好きな素材マニア。そして、私は配色や見せ方にこだわる仕上げ担当。そこにインテリアコーディネーターが加わることで、偏りなくお客様の要望に応えることができています」と宮田さんは話す。
インスピレーションが大事
テーマが決まると話が早い
宮田さんは、顧客に一番最初に会う時のインスピレーションを大切にしている。
あるシニアのご夫婦は気品があって、エレガントな印象だった。定年後のリフォームとあって、宮田さんの頭にふと浮かんだ言葉が「優雅な休日」。そのフレーズを顧客もとても気に入ってくれた。また「優雅な休日」というテーマが決まったことで、建材選びなどもスムーズに決めることができた。
▲「優雅な休日」をイメージしたリフォーム。顧客からは「想像していた以上のものが出来上がった」と大絶賛。「今までの生活上の不満や悩みがほとんど解消され、快適な生活が出来るようになった」と感謝された
「私に間取りを考えさせて」
顧客のニーズ捉え、一発契約
相見積もりでは、大手と比較されることが多い同社。ある時、水回りの入れ替えで相見積もりの依頼がきた。しかし、水回りのリフォームだけでいいのかとモヤモヤしていた宮田さんは「私に間取りを考えさせてください」と言って、間取りを一から考え直した。
顧客は定年後のご夫婦。使わない部屋が多く、日当たりや風通しが悪かった。そこで宮田さんは間仕切りをなくし、キッチンの向きを変更。朝は朝日の中でコーヒーが楽しめるように、陽が落ちた後はゆっくり和室で夕食が楽しめるようにと、陽の入り方を工夫した。
顧客からは「なんで、言いたいことがわかったの?」と言われ、即決で契約になった。地元の会社だから、小回りが効き、型にはまらない提案ができることが強みになっている。
「リフォームを通して、お客様の人生を豊かに。楽しい人生を送るためのライフプランができる存在でありたいと思います」
▲接客をする宮田さん。顧客宅に行った際には服装や家具をさりげなく見て、顧客の嗜好を察知。それを汲み取ったプランを提案するようにしている。「お客様と一緒にワクワクするようなリフォームをしたいと思っています」
▲宮田さん愛用のアクセサリーと香水。大ぶりなピアスは元気で明るい宮田さんのキャラクターにピッタリ
リフォマガ2022年6月号掲載
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