ビジュアルプレゼン手法~2つのパースを使い分けて全体像から細部まで伝え切る

魅せる 伝わる ビジュアルプレゼン手法

打ち合わせの際に、施主にリフォーム後の完成イメージを提示することで、夢を大きく膨らませ、行き違いをなくすこともできる。デジタルツールの発達によって、一昔前よりも一定レベルのビジュアル作成は容易だ。そこで最新ツールなども取り入れつつ、オリジナルの手法を駆使して、他社との差別化に成功している4社のビジュアルプレゼン手法について詳しく聞いた。



2つのパースを使い分けて全体像から細部まで伝え切る

キタセツ(東京都大田区)

キタセツでは、3Dパース作成の専任スタッフを設けて、分業体制で質の高い資料をつくる。デザイナーの中村香織さんは、3Dパースを見せる社内共通のプレゼンボードだけでなく、オリジナル資料も駆使。手描きパースをピンポイントで描き、細やかな想いまでも伝えるプレゼンを実現している。



写真のような3Dパースで顧客の心をしっかり掴む

サロンスペースの大画面で、写真のようなリアリティのある3Dパースを見せると、顧客の歓声が上がる。イメージパースは竣工写真とほぼイコールの仕上がり。これまでの事例を見せるとさらに説得力が増すという。

「平面図では、自分の住んでいるところがどう変わるか、顧客はイメージできません。大型案件で3Dパースは必須。省くことは考えられないですね」とデザイナーの中村さんは話す。

キタセツでは、10年以上前から3D住宅プレゼンCAD「ウォークインホーム・プラス」を使用。2020年1月からレンダリング機能を追加し、写真のように鮮明な3Dパースをプレゼンで用いている。

デザイナーが皆使用する「共通プレゼンボード」は、改良を重ねて今の形になった。表紙→既存図面→アフター図面→既存とアフター図面の比較→3Dパースという順序で、徐々に気持ちが盛り上がっていくような大きな流れが出来上がる。



「共通プレゼンボード」でリフォームの全体像を伝える

プランのプレゼンは、キタセツ1階のサロンスペースで、60インチの大画面を用いて行うことが多い。ここでキタセツのデザイナー全員が使うのが「共通プレゼンボード」だ。図面から3Dパースに向けて自然と気持ちが盛り上がっていくような流れで構成されている。


1. 既存図面を見せる

まずは既存図面を施主に見せる。自分の家とリンクさせて理解できるため、すんなりとプレゼンの世界に入っていける。


2. アフターの図面を見せる

続いてアフターの図面を見せる。家具や空間に最小限の色付けをしているのがポイント。施主の理解度が大幅にアップするという。


3. 既存+アフター図面を並列で見せる

1、2のビフォー&アフター図面を同じ縮尺で、並列で見せる。アフターの空間が今の家のどのラインに該当するかが一目でわかる。


4. 既存家具まで再現した3Dパースを披露

期待感が高まったところで、いよいよ3Dパースを披露する。図面とビフォー写真を入れて、1枚で完結させて見せるのが基本形だ。


5. 設備機器はデータ入りで単独で解説

Y邸では、施主の指名があったキッチンを単独でピックアップ。データのほか、図面で配置、線画で構造、3Dパースでイメージを伝える。



手描きパースの併用で万全のプレゼン体制に

キタセツは、以前はデザイナーが接客も3Dパースの作成も行う一気通貫体制だったが、3年前からパース専任のスタッフを設けた。デザイナーの大枠の指示で、忠実にセンス良く3Dパースをつくってくれる。

「接客が得意な人も、コツコツとパースをつくるのが得意な人もいる。各自の得意なことに特化させ、作業効率をアップさせたのです」。

年々依頼は増えており、中村さんは月に3、4件の新規案件を含め、常時16、17件の案件を抱えている。これも分業体制だからこそなせることだ。

中村さんは、追加でオリジナルのプレゼン資料をつくることもある。「3Dパースは空間全体の雰囲気を捉えるのに便利だけど、細部に寄ると弱い部分があります。細かいところの想いを伝えるための資料です」。ウォークインクローゼットや玄関、トイレなど、小さな工夫を詰め込んだスペースを、手描きパースに起こすことが多い。

ポリシーは何プランもつくらず、ベストの1プランを提示すること。そうすることで、そのプランの資料作成に力を集結できる。要望全てを取り入れられなくても、天秤にかけてプライオリティが高いほうを選んだとしっかりと説明すれば、顧客に納得してもらえるものだという。


1. 現調時の写真を添えて文章で想いを伝える

表紙をめくった最初のページには、既存宅のインテリアの写真が散りばめられ、中村さんがその家に対して抱いた想いが綴られている。


2. 細かくつくり込む空間を手描きパースに起こす

施主から要望のあった、勉強や仕事をする「スタディスペース」を手描きパースにした。壁付のチェストのイメージも写真で共有。

▲フレームの面が出ている、扉の穴に指をかけて開けるといった造作家具のデザインを写真で伝える


3. 雑貨類を描くことで使用イメージを共有

3Dパースだと地味になりがちなWICも手描きした。洋服を吊るした絵を描くことで、空間の使用イメージがしっかりと伝わる。

▲鏡や壁紙などは使用予定の商品を具体的に提示



【3Dパースと竣工写真の比較】空間の雰囲気やつながりが3Dパースで正確に伝わる

左が3Dパースで右が竣工写真。最終的に入れたキッチン本体は異なるが、リビングとのつながり方や窓の光の入り方、2列の幅の感覚、レンジフードの付き方など、3Dパースの雰囲気そのものの空間に仕上がった。



「オリジナル資料」ににじむ細部へのこだわりと想い

中村さんは共通プレゼンボードで伝え切れないことがある場合、オリジナル資料を作成する。前者の3Dパースは専任スタッフが作成するが、こちらは特に必要な部分に絞って、中村さん自身が手描きパースを描き、クロスや照明など、使用したい建材・商品を具体的に載せている。


《オリジナル資料例1》
狭い玄関を広く見せる工夫が満載

ドアを開けて室内に入ると、扉がたくさんあり狭さを感じてしまう玄関。そこで透明な開き戸でリビングと一続きに見せたり、収納扉に鏡を張るなど、広さの演出にこだわった提案を行った。「こういう狭い空間は、3Dだと上手く表現できないので手描きします」。商品写真やイメージ写真も組み合わせて、全体像を浮かび上がらせている。


《オリジナル資料例2》
情報を詰め込み心躍るような資料に

トイレと洗面所という狭い空間の提案に、中村さんがチョイスした凝ったデザイン壁紙、タイル、収納扉の面材やノブなどの情報を詰め込み、心躍るような資料に仕上げた。「提案時には、『我が家がこんなに素敵になるの?』というワクワク感を与えたいのです」。プレゼンの際には壁紙のサンプルも見せ、大いに盛り上がったという。



お話をうかがったのは…

キタセツ(東京都大田区)デザインチーム主任 中村香織さん

リフォーム関連の会社で働いていた時にキタセツに出会い、社員の結束が固くいい会社だと感じていた。2014年に入社し、現在、デザインチームのリーダーとして活躍中。二級建築士、カラーコーディネーター、住空間収納プランナーの資格を持つ。年々増加する大型案件を多数受け持つ。



リフォマガ2021年11月号掲載



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