今回取材したのは、設計として施主に関わる佐藤大輔さん。「設計は99%苦しいけど、お客様に喜んでもらえる1%で吹き飛ぶ」と話す。難しい現場でも、楽しむことを意識して、やりがいを見出している。
▲アートテラスホーム(神奈川県横浜市)佐藤 大輔さん(49)
設計事務所・デザイン事務所で、店舗などの意匠設計に19年携わる。5年前にアートテラスホームに入社してからは、住宅リノベーションの設計を担当。二級建築士。
大事なのはお互いにリフォームを楽しむこと
アートテラスホームは、大工だった代表の石原誠司さんが2003年に設立した。リノベーション以外にも、新築・店舗設計など幅広く事業展開している。
同社では、営業・設計・施工2名の4人のチームで、住宅リノベーション案件を担当する。全面改修がメインで、1000〜1500万円の工事がボリュームゾーンだ。チームでの実績は、800万円以上の工事は年間に9件、売上金額は1億2500万円。
設計を担うのが佐藤大輔さんだ。佐藤さんは、入社前から石原社長と仕事で付き合いがあった。前職では非住宅の設計が多かったが、自分の暮らしと繋がる住宅の設計をやってみたいと思い、5年前に入社した。
「以前は直接お客様と商談する機会がほぼなかったので、接客には今でも苦手意識があります。どれだけ準備しても毎回怖いです(笑)」
それでも、打ち合わせが始まってしまえばプレッシャーに押しつぶされることなく、目の前のお客様に集中している。佐藤さんは「施主も自分も、お互いに楽しむこと」を大事にしようと意識しているからだという。
やることリストは締め切りを入れて円滑に
佐藤さんは、主に現場調査以降のプランニング、提案から引き渡しまでを受け持つ。同時に5件程度の案件が進行していることも多く、円滑なスケジュール進行が課題だと話す。
特に、時間や予算に制限のある施主相手だと、プラン決定に時間をかけすぎると完工日が遅れてしまいかねない。すると、焦ってしまって抜けも起きやすくなる。
こうした事態を未然に防ぐために使っているのが手書きの「やることリスト」だ。決めるべき項目、いつまでに決めないといけないか、を一覧にしたもの。決定した項目には、決まった日も記録していく。
「締め切りがないと、ずるずると延びてしまいがちです。お客様にとってもわかりやすいように、リストにしています」と佐藤さん。
未着手の項目が可視化されていれば、打ち合わせ内容も整理しやすい。
即反応が求められるLINEはあえて使わない
打ち合わせを進める中でトラブルの元となるのは、お客様と自分と、時間の捉え方が違うことだという。
「自分がここまでに連絡すればよいだろう、と思っていても、お客様は遅いと感じていることがあります。不満がたまっていくと、クレームにもなりかねません」と佐藤さん。
連絡が遅い、という不満を生まないための対策のひとつが、連絡手段をLINEからメールメインにしたこと。
「以前はLINEも使っていましたが、メールより迅速な反応を求められることがありました。気軽で便利ですが、休日が考慮されなかったり、少し反応が遅いだけでも、『待たされている感』が強くなっていたように思います」
メールでも当日、遅くても翌日には返信する。どうしても即回答ができない内容には、一旦時間がほしい旨だけ返す。
「完璧に回答できるように調べている時間も、お客様は待ちの状態。何も連絡なく待たせる時間を作らないようにしています」
施主の希望は「ドリーム感」
思い切った2プランを提案
佐藤さんの印象に残っているのが、引き渡しまで1年半ほどを要した事例。50代夫婦の、実家の戸建てをフルリノベーションした。
リノベーションにするか新築にするか悩んだものの、新築では狭くなってしまうことからリノベーションに決断。
希望は「ドリーム感が欲しい」という難しいもの。佐藤さん達は、現状から想像つかないような劇的に変わるようにプランニングした。2人の設計で、異なる2プランを作成。1つは奥さん目線、もう1つは旦那さん目線をイメージした。思い切った提案で、それぞれの希望を抑えてくれていると夫婦から喜ばれた。
広さを保ちながら、希望していた省エネ計画も考慮。太陽光やエコキュートを入れたプランにした。予算は3000万円から3500万円とアップした。
同社では、パッシブデザインに力を入れて販促している。その部分が目に止まり、依頼してくる顧客も多いという。この夫婦もそのうちの人組だった。
「予算に余裕があるか判断した上で、暑くないか、寒くないか。光熱費は気にならないか?は最初の打ち合わせで聞きます。興味があれば、耐震診断や省エネ計算を提案していきます」
余白のある仕上がりで
暮らしながらアップデート
佐藤さんが接客で大事にしているのが「一緒に作っていく感覚をお互いにもつ」こと。そのために、意見を押し付けないことと、どんな要望も受け止めるのが重要だと話す。「無理」や「できない」といった否定的な言葉は絶対に使わない。
ヒアリングでは、どんなものが好きか、絶対にいやなことは何かを聞く。おおまかなイメージにそれらを落とし込み、土台となる図面・プランをつくってからの方が、施主も意見しやすく、結果スムーズに進む。
施主が仕上がりに完璧を求めるあまり、こだわりすぎて膠着することも。そんな時佐藤さんは、希望に寄り添いつつも、極力シンプルにすることを勧める。
「リノベーションはライフスタイルを変えるきっかけに過ぎません。将来を考えて、余白のある仕上がりを勧めます。暮らしながら、またアップデートしていってほしいんです」
▲佐藤さんが愛用しているグッズ。ペンはSARASA、0.7がお気に入り。マジック、マステ、三角スケール、メジャー、ドライバー、ノートなどをバッグインバッグに入れて持ち歩く。
▲現場見学会の資料。見学会はリフォーム前の施主が、イメージをつかみやすくなる機会だ。
思い入れを残した提案で
予算500万円アップ
佐藤さんが印象に残っている事例。施主が大切にしていた本棚を残しつつ、既存の廊下部分をLDKに取り込み、一体感のある空間に。
▲キッチン部分の天井を下げて、木目調のクロスで仕上げることで、ラグジュアリー感を演出した。
リフォマガ2023年11月号掲載
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