現場経験を積んだのち、リフォーム営業の道へ進んだ松原史明さん。分業制の同社で、個々の技量を発揮しながら、いかに効率的に利益を出せるかを追求する。
▲ ひかり工務店(大阪府豊中市)リノベーション部 マネージャー 松原 史明さん(38)
職人見習い、現場監督職を経て、リフォーム営業に転身。ひかり工務店には2021年10月に入社。プレイングマネージャーとして、営業・店舗管理を担う。大型リノベが中心で、昨年の年間売り上げは2億5000万円。
経歴を生かしてリノベ事業確立に従事
注文住宅を手がけるひかり工務店が、リノベーション事業を本格化させたのは2020年。その翌年2021年10月に、リフォーム営業経験者として入社したのが松原史明さんだ。
松原さんは入社するまでに、新築の現場監督、リフォーム営業を経験していた。その知見を生かして、リノベーション事業部の体制確立に尽力することとなった。
「人員も少なく、社長も現場に出ている状態で、リノベ事業をもっと拡大したい、というタイミングでした。まずは会社を知ることから始めよう、と思いました」
そこから1年、自身の営業活動のかたわら、部内の管理に関わった。その中で、松原さんが重要視してきたのが業務効率化の推進と、会社の強みを押し出した提案を強化することだった。
この施策より、松原さんは昨年、2億5000万円の売上を達成している。
分業制&工事規模限定
少数でも売り上げ4億
業務効率化のポイントは大きく2つある。ひとつは分業制だ。
業務内容を細分化することで、仕事の質も高められる。例えば営業に専念することで、施工管理の時間を取られることなく、顧客対応に注力できる。
また、働き手の負担を減らす効果もある。同社の営業は現在、松原さんと新人の2人。プラン作成などは設計担当、着工後は施工管理担当、と専門分野に応じて分担することで、業務量が分散する。
「一気通貫では、全てを1人で対応しなければならず、休みが取りにくくなります。役割を分けることで、それぞれの業務に専念し、フォローしあえるので、個々人の負担が少なくなります」
もうひとつのポイントは、案件の規模を絞ること。
同社で請ける工事は大規模案件に絞っている。戸建てで2000万円超ほどの大規模リノベーションがメインだ。
「OBのお客様など、小規模工事もまれにあります。ですが、何でも請けていると人員的にも追いきれず、効率が悪くなってしまいます」
松原さんの年間受注件数は約20件。常時15〜20件の商談を進行しており、引き合いから引き渡しまでは、約10カ月かかるものも多い。
しかし、2つのポイントを押さえた効率的な働き方により、前期売り上げ2億5000万円だったところ、今期はすでに4億円まで見込んでいる。
不要な労力削減
効率的な商談スタイルへ
松原さんは、契約前の打ち合わせ内容を見直し、不必要な労力削減を目指す。
たとえば、図面や見積もりの回数を減らすこと。
これまでは、契約前に営業と設計でヒアリングを行い、CADのパースや図面をつくりプランを提出する。2回目の打ち合わせで概算見積もりを提出し、検討してもらうのがよくある流れだった。
しかし今後は、契約前の打ち合わせは営業が担当し「ひかり工務店の強み」をプレゼンする。この時点では原則パースや図面はつくらない。
顧客が「この会社に頼みたい」となってからようやく、設計を入れてその施主ごとのプラン作成に進めていく方針だ。
これにより、契約に至らない案件での、図面や見積もりをつくる時間が短縮される見通しだ。
「材料1つの金額や、間取りの正確性が、契約の理由に結びつくことはまずありません。それより、今の不満に対してどんな解決策を持っているか、どんな家がつくれる会社なのか、を知っていただく方が選んでもらえると考えました」
強みの性能向上面が
伝わるプレゼン資料
営業がプレゼンする「ひかり工務店の強み」のひとつが、住宅の性能面の高さだ。新築も手がける同社は、リフォームでも新築レベルの性能の高さを看板に掲げている。
省エネ住宅のメリットを顧客に伝えるために、用意しているのが66ページにも及ぶオリジナルのプレゼンシートだ。
これは、住宅の性能、パッシブデザイン、過去事例での費用感などをまとめたもの。同社の家づくりは快適性を重視し、温熱なら室温が15度以下にならないように、計算してプランをつくる。
そのために、なぜ断熱が必要なのか?何を考えればいいのか?変えるとどうなるのか?を、まず営業が丁寧に伝えるのだ。資料は、顧客の興味関心に合わせて、必要部分を抜粋して説明する。
「どの建材が良い、というような1つに焦点を当てた話はしません。住宅はデザインだけでなく、断熱性能や耐震、省エネが大事。ひかり工務店に頼めば、快適に過ごせる性能の家がつくれる、とお客様にわかってもらうことこそ、営業の仕事」と松原さんは話す。
66ページに及ぶ失敗しないプレゼンシート
全てを解説すると長尺で、顧客も疲れてしまう。明確な数字、節約面、快適さ、何を重要視しそうな顧客か見極めて、説明内容をアレンジする。
資料はショールームのプロジェクターか、顧客宅ならPCかiPadで見せる。プリントアウトすることはほぼない。
施主希望の本質を捉えた
解決策で満足度アップ
大手ハウスメーカーを断り、松原さんへ依頼してくれた施主がいた。
物件を購入後、全面リフォームを予定。ハウスメーカーでは2500万円の見積もりだったが、「それだけだしてもこんな風にしかならないのか」と不満を持っていた。
「よくよく話を聞くと『明るくしたい』というのに、窓には一切手を加えていないプランでした。その時点で、ヒアリングが不十分だったように感じました」
松原さんは、日照シミュレーションをして、効果的に採光がとれるよう窓の付け替えを提案。さらに施主の話を細やかに聞いていき、個性的なものが好きそうな施主なのに、プランはよくある内容だったため、デザイン面も全面的に見直した。すると施主は「こんなこともできるんですか?」と驚いた。最終的に3800万円で契約、希望通りの内容に満足してもらえた。
「温熱検査や耐震補強は、手続きやプランニングの手間がかかり、やらない会社も多いと思います。でも、お客様が希望することの「なぜ」を聞き出せていないと、根本がズレた提案になってしまう。リフォームだから仕方ない、と諦めなくて良いように、聞くこと、調べることには手を抜きません」
▲松原さんが愛用しているグッズ。パソコン、iPad、電卓、スケール、レーザー測定器など。パソコンとiPadにプレゼン資料や過去の事例写真を保存し、どこでも開けるようにしている。
リフォマガ2023年10月号掲載
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