【THE SHOKUNIN】数々の受賞歴を持つ畳のプロフェッショナル 「一番嬉しいのは、お客様から感謝される瞬間」

【畳職人】砂川 貴幸さん(53歳)

リフォームの営業担当者にとって、熟練の職人さんは大切なパートナー。今回登場するのは畳職人の砂川貴幸さん。数々のコンテストにも入賞している、凄腕の畳職人だ。



神奈川の名工に認定
畳のプロフェッショナル

全国技能グランプリ畳製作部門で何度も銀メダルに輝き、令和3年度「神奈川の名工(神奈川県卓越技能者)」にも選ばれた砂川貴幸さん。砂川畳店の3代目として育ったが、一度外の世界を知るために大学卒業後は食品会社に就職。25歳から本格的に畳職人としての修行を始めた。同時に職業訓練校にも通い、手縫いの技術を学んだ。

「手縫いができる人と、できない人では機械の使い方が違います。畳で一番大事なのは角。古い畳は角が丸くなっていて、角を出すのに微妙な力加減が必要です。手縫いができると、そうしたポイントがわかるんですよ」と砂川さんは話す。

35歳の時、長年働いてくれた職人が退職することになり、それからは一人で仕事を請け負うことに。遠方や枚数をこなす仕事が請けづらくなることを考え、業者からの仕事だけでなく、個人客から直接受注する仕事も増やしていこうと考えた。

そのために挑戦したのが、技能グランプリだ。受賞歴をHPに掲載したところ、質の高い畳工事を求める顧客からの依頼が増え、現在個人客の仕事は7〜8割まで増えている。

▲地元・相模原で3代続いている、砂川畳店の外観

▲キリッと畳の縁の角が立っている砂川さんの畳。作業のほとんどは機械で行うが、手仕事の技が光る瞬間がある

▲店頭に飾っている相模原商工会議所が企画したポスター展のポスターと、全国技能士会連合会の「全技連マイスター」の認定証



顧客に畳の説明をしたい
「顔の見える仕事」を

砂川さんは直接顧客に会って畳の説明をする「顔が見える仕事をしたい」と常に考えている。

「詳しい畳の提案を畳屋以外がするのは、とても難しいと思います。畳にはカタログがありません。い草は農作物なので、昨年のものは良くても、今年のものは出来が悪いこともあります。畳屋と営業さんで事前に打ち合わせをした上で、お客様に提案ができたらと思います」と砂川さんは話す。

リフォーム会社の営業が良かれと思ってしたことが、かえって悪い結果になったこともあった。高価な畳表を使っていた立派な和室にも関わらず、安い畳を入れたことで見栄えが悪いとクレームに。畳はグレードがわかりにくいため、わからないことは畳職人に相談してもらった方が無難だと砂川さんは言う。

▲懇意にしているリフォーム会社には数種類の畳表を切った見本を渡して、顧客に選んでもらうようにしている。実際、畳表を数種類触ってみると、厚みや手触りの違いがわかる



畳の提案力が上がれば売上もアップするはず

以前、砂川さんは設計士の集まりで畳についてレクチャーする機会があった。畳の寸法を考えずに設計をしてしまうと、1cm違うだけで余計に材料費がかかったり、畳替えをするたびに施主の費用負担が多くなったりすることを話した。

その後、集まりに参加した設計士から仕事を依頼されたが、畳のことを考慮した設計になっていたことが嬉しかった。「『畳にもグレードが色々ありますが、どうされますか?』と一言お客様に聞くだけで、提案力が上がります。そうなれば、和室で売上を伸ばすこともできるはず」と砂川さんは話す。

畳職人をしていてよかったと思うのは、顧客から感謝される瞬間だ。「キレイになってよかった」「ありがとう」と言われることが何より嬉しい。ある顧客からは、病院から一時帰宅する祖父のための畳替えを依頼された。「亡くなる前に、畳の上に寝ることができて、祖父は本当に喜んでいました」と感謝された。「これからもお客様に喜んでもらえるよう、当たり前のことをきちんとやっていきたい」と砂川さんは話す。

▲手縫いをする時に愛用している道具

▲柱の位置などの関係で、畳の一部を切り取るような場合は、手縫いが必要になる





推薦の言葉

黒羽表具店 代表 黒羽雄二さん

砂川くんと同じ、地元・相模原で、ふすま屋と内装業をやっている黒羽です。以前は建築設計をやっていたので、そのスキルを活かし、リノベーションなども手掛けています。

砂川くんとは、実はおさななじみ。畳とふすまという和室に欠かせないモノを仕事にしている家に生まれたからなのか、とても気が合い、子どものころから仲良くしていただきました。

ふすまから内装、リノベと色々と手を付けてしまうぼくと違って、砂川くんは、ストイックに畳を貫く男。全国技能グランプリに出場し、何度も銀メダル(そろそろ金を取ると思います)を手にしているレジェンドです。その噂を聞きつけた、とんでもないところから仕事の依頼が入ったりします。

彼の人柄もあいまって、今までお願いした仕事でクレームは一つもなし。気が付けば、もう40年、和室を舞台にしたぼくのサイコーの相方です。



砂川さんからリフォーム営業担当者にメッセージ

「こうしてもらうと嬉しいなぁ」

私がまだ30代の頃、あるリフォーム会社から畳表の裏返しを依頼され、お客様の家に行きました。しかし、その家の畳はすでに裏返しがされていて作業をすることができませんでした(裏返しとは、今使っている畳表を裏返して新しい縁をつけること。すでに裏返しをしていた場合は、畳表を替える表替えが必要となる)。

どうやら、お客様は裏返しに乗り気ではなかったらしく、裏返しができないことを知りながら、営業さんを試したようでした。「裏返しができると言ったのに、そんなこともわからなかったのか」と怒っていました。

最終的には、そのお客様は「職人さんにはごめんなさいね」と言って、お茶まで淹れていただきましたが、この仕事はなかったことになってしまいました。

もし、畳替えを提案するのであれば、最低限そうしたポイントを確認してもらえたらと思います。



リフォマガ2022年7月号掲載

年間購読(毎月15日発行・購読料8,800円)のお申込はコチラ

バックナンバーのご購入はコチラ

リフォマガのご案内はコチラ

リフォマガ

『リフォマガ』は、株式会社リフォーム産業新聞社が発行する現場担当者向けの情報誌です。 リフォーム営業マンに役立つ営業テク、現場調査の方法、商品情報を発信します。 雑誌『リフォマガ』は毎月15日に発行。年間購読料8,800円。(税込・送料込)

0コメント

  • 1000 / 1000