今回登場するのは、現場で下積みを経験してきた小口桃子さん。下請け時代に女性営業の必要性を感じ、顧客の思いに応えたいと一念発起し元請けに転換した。
▲リフォームデザイン(東京都府中市)代表取締役 小口桃子さん(38)
高校卒業後、実家の建設会社で現場監督業に携わる。その後10年前に父とリフォームデザインを設立し、下請け中心にリフォーム業を経験。3年前に府中に店舗を構え、現在は元請けとして、地元客中心にリフォーム依頼を受けている。
下積み時代できることは自発的に行う
幅広く建築業で経験を積んできた小口桃子さん。その経験から、様々な人の目線で考えられるのが強みだ。そんな小口さんが一貫して大事にしているのが、職人との関わり方。
高校卒業後は、父の建設現場で、何もわからない状態で働いていた。「言葉数も多くないし、頼んだことしかやらないよ、という感じで、初めのうちは職人さんが怖かったです」と振り返る。
そこで小口さんが取った行動は、積極的に職人たちと関わることだ。養生を手伝ったり、荷物を運んだり、自分にできることは自発的に行った。
「自分の良さは一生懸命さしかないと思った」という小口さんは、知らないことは職人に相談しながら、とにかく現場で動いた。すると職人も次第に変化していく。
「『このままクロスを張るとガタガタになっちゃうから、左官屋さん入れた方がいいよ』とか、先回りしてアドバイスをくれたり、助けてくれたりするようになりました」
それからも職人に教わりながら、見積もり作成や内装工事などに携わる。仕事の合間にインテリアコーディネーターの資格も取り、知識を蓄えていった。
▲小口さん愛用のアイテム。iPadと専用ペンは、特に現調時に重宝している。初めに4面写真を撮り、寸法は写真に書き込む。図面より間違えにくく、写真1枚で情報が完結するため職人への共有もしやすい
下請け時代理不尽なクレームから学び
その後、父と共にリフォームデザインを立ち上げる。当初はハウスメーカーのリフォーム下請けがメイン。小口さんは、工事以外の営業にも同行するようになった。
この頃、印象的で勉強になったと語るのが理不尽なクレームだ。
地下以外の1棟まるごとをリノベーションした物件でのこと。地下には高級なものがあるので立ち入らないで欲しいと要求があった。「もちろん職人さんにはもれなく周知しましたし、誰も入っていなかったはずなんです」
しかし、地下の花瓶を壊されたと責められてしまった。割れた花瓶に養生テープが貼ってあり、工事関係者が疑われた。
初めの対応でハウスメーカーの営業が強めに否定したことも、余計に油を注いでしまったのかもしれない。第三者を交えた話し合いにまで発展したが、結果的には事なきを得た。
「それからは、何かあってもいいように、現況のキズなどを写真に撮って、一層気をつけるようになりました。最初に落ち着いて説明することも大事だと、改めて感じましたね」
女性営業の必要性感じ
店舗オープンで元請転換
だんだんと元請け企業から小口さんに任される仕事内容も増えていき、気付けばヒアリングからプランニングまで、ほぼ全て担うようになっていた。小口さんはインテリアコーディネーターの知識を活かし、内装の提案も積極的にしていた。
しかし、下請けのため、色々やろうとするとどうしても金額が高くついてしまい、諦めざるを得ないこともあった。そんな顧客を見ているうちに、「できるのにできない選択をさせてしまうのがもどかしい」と思うようになった。
背中を押したのはある女性顧客の言葉だった。
「『他ではおしゃれにしたいのに伝わらなくて、話も共感してもらえなかった。小口さんは話もわかってくれるし、デザインも相談できる。あなたみたいな人にお願いしたかった』と言われたのが嬉しかったです。と同時に、ああ、こういう人材が必要とされているのに足りていないんだなと思い、元請けに転換することを決めました」
その後、産休中に準備を進め、家族の支えもあって、3年前に店舗をオープンした。
▲店内デザインは小口さん
施工事例アピールで設備交換が全面改修に
オープンしてしばらくはなかなか軌道に乗らず、依頼も小さな設備交換が大半。パンフレットやホームページも味気なく、顧客にどんな会社か伝わっていないことが原因だと小口さんは考えた。
そこで、不動産会社へ営業をかけたところ、ある賃貸物件のデザインを任せてもらえることになった。竣工後には写真映えを意識し、小物や家具を持ち込み、プロのカメラマンを入れて撮影した。
すぐにパンフレットをつくり、HPにも事例を掲載。すると、設備交換ではなく全面改修や外壁工事が舞い込み、工事規模が顕著に変わった。それからは一切広告などを出していないにも関わらず、安定した受注につながっている。
駅近の立地も功を奏し、営業は小口さん1人で月に4〜6件の現場を動かしている。中には2000万円ほどの大型リフォームもある。
問い合わせの9割は新規。半数が店舗をきっかけにした来店だ。
「店舗の内装も飾り棚や照明、カウンターなどにこだわり、こんなことができますよ、とお客様に伝わるようにつくりました」
店頭看板にQRコードをあしらうなど、店舗自体も宣伝塔として活用する。
近隣の顧客が多いため、打ち合わせの移動時間も短縮できメリットづくめだという。
相見積もりに勝つ
品番なしのプランシート
「大手ではできない、かゆいところに手が届くようなプランニングを心がけています」と小口さん。その細やかさは、プランシートにも反映されている。
品番を入れないのは、施主へのわかりやすさのためだ。「お客様は品番よりも、困りごとに対してどのようなアプローチができるかを知りたいはずです」
洗面所、キッチンなど場所ごとに商品を紐付け、どんな使い方ができるものなのかを記載する。相見積もり対策にも効果的だ。初めの見積もりは、他社に持っていかれることも多く、プランを真似されることもある。しかし、品番が入っていなければ真似しにくい。
1つの図面に対して何枚にも渡ることもある。プランシートは見積書と一緒に渡す。
この提案力で、3社で競合していた1000万円のフルスケルトンリフォームを勝ち取った。決め手は「ここまで細かくプランしてくれるところは他になかった」からだった。
「それぞれの立場もよくわかるからこそ、提案の幅も広げられていると思います。職人目線で収まりを気にしたり、女性目線で使い勝手を気にしたり。相手に共感することを大切にしています」
今後も多角的な視点を武器に、顧客の思いに応えていきたいと話す。
▲施主の困りごとをおさえたプランシート。「金額よりもリフォームに対してワクワクしてほしい」と小口さん
転機になった賃貸リフォーム
「もっと若い方にも入ってもらえなければ、空き家が増えてしまう」という賃貸会社の担当者の思いを汲んでデザイン。家具や小物はレンタルや私物を使って、事例用に撮影したところ、入居希望が殺到。隣家は施工前に予約が入るほどだった。
▲【施工後】若い男性の暮らしを想定し、ネイビーのアクセントクロスとワークスペースを意識。抜けない構造柱はニッチでポイントに
▲【施工前】元は寝室と居間に分かれた和室だった
リフォマガ2022年11月号掲載
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